掃除の方程式と基礎知識 /第一編:掃除 第二章
■ 第2章 掃除の方程式と基礎知識
「掃除の方程式と基礎知識」制作にあたっては、私が取得している厚生労働大臣認定資格【ビルクリーニング技能士】・【建築物環境衛生技術者】・【清掃作業監督者】などの教科書を参考資料としている。資料となる教科書は幅広い知識と作業方法などが紹介されているのだが、情報量が多く現場で活用するには本を持ち歩かなければならないほどである。実際に私も常にかかわりのある内容以外は、時間が経過するにつれてほとんど覚えていない。さらに、様々な掃除方法も紹介されているが、必ずしも同じ状況ではないためそのまま活用するには不安も残る。なぜなら、建物は様々な環境要因により個々の形状や構造をしているので、掃除もそれに合わせた作業方法が求められるからである。
もっと現場で活用しやすいように方程式的なものができないだろうかと考え、個人的に掃除の基礎知識をまとめてみた。
これは、より多くの人に理解や活用してもらえるよう、教科書の中から掃除に必要と思われる基礎知識と私の現場経験を基に、シンプルにまとめた「掃除の基礎知識」である。
* 掃除の国家資格【ビルクリーニング技能士】・【建築物環境衛生技術者】・【清掃作業監督者】などの教科書や専門資料の画像
■ 2.1 住まいの掃除と健康
住まいとは、睡眠や休息を取ったり、子を育てたり家族と暮らすなど、生活の中で多くの時間をすごし、人生にとってなくてはならない大切な場所である。住まいを掃除する目的は、ゴミやほこり、汚れなどの異物を除去する事によって、室内の環境を衛生的に保つことや、建築材料の劣化などを防ぎ、家の美観を高める事である。その中でも一番重要なことは、人体に害を与えるような異物(汚れ)を人間の生活空間から排除し、「衛生的な環境を確保する事」である。つまり、住まいの掃除をすることは、人と家の健康に深い関係を持っているといえる。そんな住まいの掃除と健康について簡単に説明する。
現代主流の密閉化された室内では、掃除をしないと人体に悪い影響を与える恐れのある各種汚染物質の外部侵入や、日常生活に伴う内部発生により、汚れは溜まっていく。アレルゲンともなるハウスダストや、ウイルスなどを含む汚染物が人間の生活環境に存在すると、空気中の浮遊物となって体内に吸収されたり、人体に接触して摂取されるなど、二次的な衛生上の害を発生させる危険もある。住まいの掃除は「人体に影響するような汚れを除去する」という大きな意義を持っていることになる。
健康の概念は世界保健機関(WHO)*1の健康の定義によると、身体的・精神的・社会的に完全に良好な状態であり、たんに病気あるいは虚弱ではないといわれている。(昭和26年官報掲載の日本語訳)
生活の中で多くの時間をすごす住まいの環境が衛生的に保たれるという事は、身体的・精神的にも良好な状態を作る効果があり、日常生活や仕事にも良い影響を与え、結果、社会的にも良好な状態につながると考えている。このことからも、掃除とは、居住者の健康にとっても重要な要素であるといえる。
*1世界保健機関(せかいほけんきかん、World Health Organization、WHO)は、健康を基本的人権のひとつととらえ、その達成を目的として設立された国連の専門機関。
● 2.1-1 予防対策
人の健康は病気になってから対処するのではなく、病気にならないための予防を積極的に行うことが大切とされている。掃除も同じで、汚れたから掃除をするのではなく、汚れないよう積極的に掃除(予防)をすることが大切である。したがって、掃除をラクにするための予防対策をすることは、衛生的な環境を維持しやすくなるので、人の健康にとってとても大切な事といえる。
● 2.1-2 住まいの掃除とその知識
掃除は、住まいから汚染物質(汚れ)を除去する事で、衛生的な環境を確保することだが、居住者のライフスタイルも様々なため、その作業範囲は広く内容も多種多様となる。そのため住まいの掃除といっても、何から考えればよいのか迷うほどである。
そこで、ビルクリーニングにおける建築物清掃の分類方法を、住宅に置き換えて考えてみる。住まいの掃除を大きく3つに分けて、"室内の掃除"、"外装の掃除"、"ゴミの管理"として考える。3つの中でも"室内の掃除"は、衛生的に生活するためにも日常的に行う必要があり、1番重要な掃除となる。"外装の掃除"は汚れの頻度により不定期に行うものが多くなるが、家を守るうえでも大切なことである。そして掃除の一つとして、住まいに発生する"ゴミの管理"も衛生上重要な事である。これら住まいの掃除を、室内の掃除・外装の掃除・ゴミの管理の3つに分けることで、各作業範囲においての掃除方法(汚れやゴミを除去する)を考えやすくなる。
このように掃除についての知識があると、効率よく効果的に掃除を行うことができる。しかし、掃除の知識といってもその数は膨大な量となるので、掃除の基本的な考え方と必要な知識を簡単にまとめた「掃除の基礎知識と方程式」を次で紹介する。掃除についてもっと詳細な知識を得たい方は、ビルクリーニング技能士・建築物環境衛生管理技術者・清掃作業監督者などの国家資格取得をお勧めする。
■ 2.2 掃除の基礎知識と方程式
掃除の国家資格取得の際に勉強した、テキストや資料はかなりの量になる。それは、思っている以上に建物の掃除やメンテナンスに関する適用範囲が広いことや、必要とされている知識の量が多いいということである。そのなかでも、建物の掃除に関する項目だけでもかなりの量となる。しかし、それら全てを実際に現場で活用できるかというと、ほとんどの人が出来ていないものと考えている。もちろんテキストや資料に書かれていることは重要なことではあるが、それらを全部覚えることも困難であるし、何より各現場により環境や状況が異なるため、その都度自分たちで考え対応しなければならないからだ。
現場では新しい建材や建築技術が取り入れられていくため、必然的に掃除する側も新技術への対応が求められ、建築の進歩に伴い掃除方法も進化していかなければならないのである。マニュアルでは対応しきれない現状に、卓上の理論と現場とのギャップを感じる瞬間でもある。この、生モノともいえる現場で臨機応変に掃除方法を考えるための有効な手段はないものかと日ごろから考えていた。そして、掃除とは?掃除方法とは?などを改めて考えてみた。
テキストや資料から掃除に必要な知識を分類し、それらの基礎知識をシンプルに考えていくと、ある方程式が見えてきた。
建物の環境や状況により様々に変化する掃除方法をxとした場合、答えを出すために必要とされる知識は「建材の知識」・「汚れの知識」・「洗剤の知識」・「用具の知識」・「作業方法の知識」・「保護剤の知識」となる。
この理論を現場作業に置き換えてみると、現場で実際に掃除をするときは、まず「何所に? どんな汚れ?」が付着しているかを理解する事が大切であり、それをもとに掃除方法を決定することになる。
① 何所に、どんな汚れ?
掃除の対象となる、場所と汚れについての現状分析を行う。住まいの汚れは建築材料(建材)に付着しているため、何所に(建材の知識)汚れが付着しているか、どんな汚れ(汚れの知識)が付着しているかを識別し、分析の結果をもとに掃除方法を決定する。
② 掃除方法の決定!
掃除方法を決定するには、除去力として化学的な力(洗剤の知識)と物理的な力(用具の知識)を、効果的に活用(作業方法の知識)する必要がある。最後に、汚れが再度付着したときなどを考慮する場合は、予防掃除として建材に防汚コーティングなど(保護剤の知識)を施すとよい。
「何所に?どんな汚れ?」が付着しているか分析 → 分析結果を基に掃除方法の決定
まとめると、掃除の基礎知識として必要とされるのは、「建材の知識」・「汚れの知識」・「洗剤の知識」・「用具の知識」・「作業方法の知識」・「保護剤の知識」となる。これらの知識を効果的に活用するためのアイテムとして掃除の方程式を考案した。
● 2.2-1 掃除方法を導き出す、掃除の方程式 …(うえきの方程式)
★現場的思考で表現すると・・・
掃除方法x =(何所に?・どんな汚れ)分析→(除去力の選定・除去力の活用法)+予防掃除
★現場的思考から理論的な知識に落とし込み表現すると・・・
掃除方法x =(建材の知識・汚れの知識)分析→(洗剤の知識・用具の知識)作業方法の知識+保護剤の知識
実際に数学の方程式とは少し異なるが本質的には似ており、ネーミングのインパクトを考慮した結果「掃除の方程式」と名付けた。
現場により環境や状況が異なるなかで、掃除に対するある程度の条件が決められてくる。使用されている建材や付着している汚れやその周辺の環境などである。また、依頼主から予算や作業内容の一部を限定されることもある。現場では、そういった様々な状況の中でも効果的な掃除方法を考えなければならない。
そのようなとき、資料やテキストや現場経験など数多くある様々な掃除の知識も、分類して上記の方程式に当てはめてみると掃除方法が導き出される。もちろん方程式を使う人の掃除知識の量や幅により掃除方法は異なってくるのだが、方程式を使用する人なりの掃除方法を考えやすいものとなった。ここで大切なことは、各知識をバラバラで考えるのではなく、上記図のようなビジュアルで知識の活用法を覚えておくことがわかりやすいと思われる。
次回からは、掃除の方程式で活用する6つの基礎知識について順に紹介していく。