汚れにくい環境を作る -1 住まいの「汚れ」を特定する /第二編 第一章
第一章 汚れにくい環境を作る
掃除をラクにするためには、汚れにくい環境を作る事がもっとも大切な事となる。極論を言えば汚れなければ掃除をしなくても良いのである。しかし、住まいは使用しなくても時間の経過にともなって汚れていく。汚れにくい環境を作るためには、掃除の対象となる汚れを特定することから始まる。そして、汚れが付着するということは必ず原因があるもので、特定した汚れを分析し、発生原因や性質を考慮した汚れ対策をすることで、汚れの発生防止や発生量を減らすことになる。さらに、汚れが付着および室内へ侵入した場合、その汚れを速やかに除去するための対策なども併せて行うことが、汚れにくい環境を持続させ居住後の掃除をラクにするのである。
*その他、凹凸を無くしたり、掃除がラクな建材を使用したり、掃除がラクな作業環境を確保することで掃除およびメンテナンスをラクにするなど、他の法則を採り入れて、汚れにくい環境を作ることも大切である。
● 1-1 住まいの「汚れ」を特定する
1-1.1 健康のための掃除
汚れの予防対策をするまえに、予防の対象となる汚れを特定しなければならない。ここでは健康のための掃除ということで、主に室内に発生する汚れについて特定していく。一日の大半を過ごす住まいについて、現在、換気不足やダニ・カビの発生、ホルムアルデヒドなどの化学物質による影響が問題となっている。その中でも注目するべき現状として、喘息、アトピー性皮膚炎、花粉症などを含む何らかの免疫アレルギー性疾患を有する患者は、日本国民のおよそ30%に上るともいわれている。この疾患により多くの国民が日常生活に支障を来していることから、国としても放置できない重要な問題となっている。その、アレルギー性疾患とは何か?を、東京都福祉保健局のアレルギー予防を引用してかんたんに紹介する。
* 2007年調べ「東京都福祉保健局健康安全室環境保健課のホームページ→アレルギー対策→アレルギー豆知識→アレルギー予防のために」 から引用しているのだが、2009年時点においてサイトのリンクは切れている状態であった。
( http://www.fukushihoken.metro.tokyo.jp/kanho/allergy/tishiki/allergyprevention.html リンク切れ)
ちなみに、2009年時点で東京都福祉保健局(http://www.fukushihoken.metro.tokyo.jp/index.html )トップページ →環境・衛生 →環境・衛生施策 →アレルギー・花粉症 →東京都アレルギーホームページ →アレルギー豆知識という、新しくリニューアルされたサイトとなっていた。
【1】アレルギーとは
ヒトはからだの中に異物(たとえば、ウイルスや、細菌など)が入ってくると、その異物に対抗する物質を作って(抗体といいます) 異物を排除しようとします。これを免疫反応といい、ヒトは免疫反応によって、さまざまな外敵から自分の身を守ってきました。しかし、この免疫反応が異物(抗原といいます)をやっつけず、逆にその人の体を攻撃してしまうことがあります。このような反応をアレルギー反応とよびます。たとえば、ダニや家のホコリを吸い込むと、胸が「ゼーゼー」したり皮膚がかゆくなったりするような、さまざまな症状は、アレルギーの反応によって引き起こされるものです。
【2】アレルゲン(アレルギー原因物質)
アレルギーの反応では、IgE抗体という抗体が「攻撃」の中心的な働きをしています。また、これに対応する抗原をアレルゲンとよびます。このアレルゲンがアレルギーの原因物質です。アレルゲンは主に吸い込んで体の中に入る「吸入性アレルゲン」と、食べ物として入る「食物性アレルゲン」とに分けられます。吸入性アレルゲンではホコリやダニ、カビ、花粉、ペットの毛やフケなどが、食物性アレルゲンでは卵、牛乳、小麦などがあります。花粉症のアレルゲンとして代表的なのはスギ、ヒノキや、イネ科の植物などの花粉です。
【3】アレルギーの病気
気管支ぜん息、アトピー性皮膚炎、アレルギー性鼻炎・結膜炎(花粉症など)、などがアレルギーによっておこる代表的な病気です。また、かぜをひきやすく、かぜをひくとゼーゼー、ヒューヒューする、息が苦しくなる、湿疹ができやすい、かゆがる、くしゃみや鼻水を繰り返す、眼がかゆいなどの症状は、アレルギーによる病気のはじまりを示していることがあります。
資料 [2007年4月12日/日本経済新聞 朝刊]より
● 子供のアレルギー、アトピー70万人--文科省が初の調査
文部科学省は11日、子どものアレルギー疾患について、すべての公立小中高校を対象にした初の全国実態調査の結果を発表した。アトピー性皮膚炎の児童生徒は約70万人、ぜんそくは約73万人と、いずれもほぼ18人に1人。花粉症を含むアレルギー性鼻炎は約118万人と1割近くに上った。
同省は今年度にも、同疾患をもつ子どもごとに、学校が注意すべき点を医師があらかじめ示しておく「学校生活管理指導表」を導入する。
調査はアレルギーのある子どもの有無や学校の対応について、2004年12月から05年2月にかけて聞いた。回答した学校の児童生徒数は約1277万3000人で、小中高校の子ども全体の約9割を網羅する大規模調査となった。
アトピー性皮膚炎にかかっている子どもは69万9086人で全体の5.5%、ぜんそくは73万466人で5.7%を占めた。
1-1.2 住まいの汚れを特定する
住まいの汚れを特定する場合、健康面を考えるとアレルギーの原因となる「アレルゲン」の存在は無視できない重要な汚れとなる。しかし、アレルゲンの種類はとても多く、全てを汚れとして考えるわけにはいかないのである。そのため、住まいの汚れとしてのアレルゲンを考える。
【1】吸入性のアレルゲン
アレルギーの原因物質であるアレルゲンには、食物として体内に入る食物アレルゲンと、空気を吸い込んで体内に入る吸入性アレルゲンがある。このうち、住まいの掃除をする事で改善できるのは吸入性アレルギーとなる。衛生的な室内環境の確保を目的とした場合に、 吸入性アレルゲンとして「ハウスダスト」を、住まいの汚れとして考える。一般的にハウスダストと呼ばれている吸入性アレルゲンには、つぎのようなものがある。
◇ ハウスダスト(浮遊塵となる汚れ)
(1) ほこり (2) ダニ (3) カビ (4) 花粉 (5) ペットの毛やフケ
(6) その他(繊維のクズ、ソバガラ等)
このうち、最も注意が必要なアレルゲンがダニとなる。近年、住まいの高断熱および高気密化によりダニの種類や数が増えている。ダニは生きているダニそのものの他に、フンや死骸もアレルギー症状の原因となるため、アレルギー性皮膚炎やぜんそく等を含め、アレルギー症状や疾患の80%程度がダニに関連しているといわれている。
対策としては、掃除して除去するだけでなく、ダニを発育させない環境作りが大切となる。さらに、汚れとは違うが健康的な室内の空気環境を考えると、シックハウスについても併せて対策していくことにする。
【2】シックハウス対策について
新築・リフォーム後の住宅などで、臭気を感じたり、目のかゆみ、喉の痛み、頭痛など、さまざまな体調不良を居住者が訴えるといった報告がなされている。これらは一般に「シックハウス症候群」と呼ばれており、ホルムアルデヒドを始めとした化学物質、ダニやカビなどの生物因子、建築物の設計・施工方法、換気などの住まい方など、様々な複合要因が影響していると考えられているが、その症状は多様で、未解明な部分が多く残されている。その中でも有害化学物質による室内空気汚染が問題視されている。室内では、建材や家具、芳香剤や防虫剤などの家庭用品から、様々な化学物質が発生している。とくに近年の住宅は機密性が高く窓などの開口部を閉め切った状態であると、自然換気量は少なく、室内の化学物質濃度は高くなり健康に影響を及ぼす事もある。
空気中の有害物質としては、ホルムアルデヒド(HCHO)や揮発性有機化合物(VOC)などが挙げられる。
このことからも新築およびリフォームを行う際には、使用する建材や家具などを選ぶ時に、ホルムアルデヒドなどの有害化学物質の発生量が少ないものが望ましい。とくに、家が新しい時やリフォームして日が浅いうちは、建材などにより発生する化学物質の発生量が多いため、通風や換気をこまめに行い室内の化学物質濃度が高くならないようにする事が大切である。
【3】住まいの汚れ
健康で快適な室内環境を考える場合、人体に害を与えるような異物(汚れ)として、吸入性アレルギーのアレルゲンを重要視し、シックハウスについても併せて予防対策をしていく。このことを踏まえて、住まいの数ある汚れの中から、「人体への危険度」と「住居の汚染範囲」などを考慮して大きく3つに分けて特定した。
1. ほこりなど空気の汚れ
(ハウスダスト:カビの胞子や花粉、炭素粒子、タバコ煙、ペットの毛なども含む)
2. 微生物や衛生害虫の発生による汚れ
(カビ、ダニ、ゴキブリ、その他)
3. 日常生活に伴うその他の汚れ
(キッチンやバスルームの使用など、日常生活にともなって発生する様々な汚れ)
★ほこりなど空気の汚れ(天井埋め込み式換気扇のフィルターに付着した汚れ)
★微生物や衛生害虫の発生による汚れ(天井から壁面を汚染しているカビ被害)
★日常生活に伴うその他の汚れ(ハウスクリーニングでも人気の高いメニューの一つである水廻りは、汚れの種類も多く他の場所に比べても比較的掃除も大変となる)
次回は、特定した3つの住まいの汚れの、分析と対策ポイントについて紹介したいと思う。